1.はじめに
今回は先日解説した「給与所得課税されない食事補助とは?」に関連して、事業者が食事補助をした場合の会計処理について解説します。
ご興味がある方は、先日解説した「給与所得課税されない食事補助とは?」も併せてご確認ください。
2.従業員に対して食事補助をした場合の消費税の課税関係
事業者が、福利厚生の一環として従業員に対して食事補助を行う場合の消費税の課税関係は次のとおりです。
個別の内容については次の項でケースごとに確認していきます。
国税庁タックスアンサー(従業員に対する食事の提供)をもとに作成
●国税庁タックスアンサー(従業員に対する食事の提供)消費税
3.社員食堂で従業員に食事を提供する場合
事業者が社員食堂で従業員に食事を提供する場合の消費税の処理は、次の3つに分けられます。
無償で食事を提供する場合
事業者が社員食堂で従業員に無償で食事を提供する場合、対価を得ていないため、資産の譲渡等に該当せず、消費税の課税の対象外となります(消費税基本通達5-4-4)。
また、食事の無償による現物支給という”経済的利益”を得ていると認められるため、その経済的利益の金額に対して所得税が課されます(所得税法第36条、所得税基本通達36-15)。
消費税基本通達5-4-4(福利厚生施設の利用)
事業者が、その有する宿舎、宿泊所、集会所、体育館、食堂その他の施設を、対価を得て役員又は使用人等に利用させる行為は、資産の譲渡等に該当することに留意する。
ランチなど通常の勤務時間内(残業又は宿日直、深夜勤務以外の勤務時間)に役員や使用人に食事を支給する際は、次の2つの要件を満たす場合は給与所得として課税されないこととされています(所得税基本通達36-38の2)。
(1)役員や使用人が食事の価額の50%以上を負担していること
(2)会社が負担している金額から(1)を控除した金額が1か月当たり3,500円※(税抜)以下であること
※月額3,500円の食事代の金額判定は、消費税抜きの金額で行います。
所得税基本通達36-38の2(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)
使用者が役員又は使用人に対し支給した食事(36-24の食事を除く。)につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、36-38により評価した当該食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。
ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額3,500円を超えるときは、この限りでない。
具体的な会計処理を検討するため、会社が従業員にお昼の食事を支給するにあたり、次の条件を満たしているものとします(税抜表示)。
(1)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計7,000円の支給を支給
(2)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計0円の金額を給与から徴収(つまり徴収なし)
(3)上記以外は考慮外
上記の場合、会社がそれぞれ計上するべき仕訳は次のとおりです。
(1)福利厚生費 7,000円 /現金預金7,560円
仮払消費税等 560円
(2)給与xxx円 /現金預金 yyy円
/雑収入 0円
/仮受消費税等 0円
(3)給与 7,560円 /福利厚生費 7,000円
/仮払消費税等 560円
無償で食事を提供しているため、消費税の課税の対象外となります。また、所得税基本通達36-38の2に規定する食事の支給による経済的利益がないものとされる場合に該当しないため、原則通り経済的利益があるものとして給与として所得税が課されます。
有償で食事を提供する場合
事業者が社員食堂で従業員に有償で食事を提供する場合、従業員から徴収する金額が課税資産の譲渡等の対価に該当するため、消費税の課税の対象となります。
従業員から徴収する金額が時価より低い金額であっても、従業員から徴収する金額が、当事者間で授受することとした対価の額として、課税資産の譲渡等の対価の額となります(消費税基本通達10-1-1)。
消費税基本通達10-1-1(譲渡等の対価の額)
法第28条第1項本文《課税標準》に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」とは、課税資産の譲渡等に係る対価につき、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的利益の額をいい、消費税額等を含まないのであるが、この場合の「収受すべき」とは、別に定めるものを除き、その課税資産の譲渡等を行った場合の当該課税資産等の価額をいうのではなく、その譲渡等に係る当事者間で授受することとした対価の額をいうのであるから留意する。
(注) 同条第1項ただし書又は第3項《資産のみなし譲渡》の規定により、法人が役員に対して著しく低い価額で資産の譲渡若しくは贈与を行った場合又は個人事業者が棚卸資産又は棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを家事のために消費若しくは使用した場合には、当該譲渡等の時におけるその資産の価額により譲渡があったものとされる。
具体的な会計処理を検討するため、会社が従業員にお昼の食事を支給するにあたり、次の条件を満たしているものとします(税抜表示)。
(1)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計7,000円の食事を支給
(2)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計3,500円の金額を給与から徴収(50%以上を徴収)
(3)上記以外は考慮外
上記の場合、会社がそれぞれ計上するべき仕訳は次のとおりです。
(1)福利厚生費 7,000円 /現金預金7,560円
仮払消費税等 560円
(2)給与xxx円 /現金預金 yyy円
/雑収入 3,500円
/仮受消費税等 280円
有償で食事を提供していて、かつ、所得税基本通達36-38の2に規定する食事の支給による経済的利益がないものとされる場合の要件を満たすため、例外的に経済的利益はないものとして給与として所得税が課されません。したがって、会社が食事を仕入れた費用は、福利厚生費として仕入税額控除の対象となり、会社が従業員から徴収した金額は課税売上となります。
有償で食事を提供して、かつ、所得税基本通達36-38の2の要件を満たさない場合
事業者が社員食堂で従業員に有償で食事を提供する場合、従業員から徴収する金額が課税資産の譲渡等の対価に該当するため、消費税の課税の対象となります。また、食事の現物支給という”経済的利益”を得ていると認められる部分については、その経済的利益の金額に対して所得税が課されます(所得税法第36条、所得税基本通達36-15)。
具体的な会計処理を検討するため、会社が従業員にお昼の食事を支給するにあたり、次の条件を満たしているものとします(税抜表示)。
(1)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計7,000円の食事を支給
(2)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計 500円の金額を給与から徴収(50%以上を徴収)
(3)上記以外は考慮外
上記の場合、会社がそれぞれ計上するべき仕訳は次のとおりです。
(1)福利厚生費 7,000円 /現金預金7,560円
仮払消費税等 560円
(2)給与xxx円 /現金預金 yyy円
/雑収入 500円
/仮受消費税等 40円
(3)給与 7,020円 /福利厚生費 6,500円
/仮払消費税等 520円
有償で食事を提供している部分については消費税の課税の対象となります(税込540円)。一方で、上記のケースでは、所得税基本通達36-38の2に規定する食事の支給による経済的利益がないものとされる場合に該当しないため、原則通り経済的利益があるものとして給与として所得税が課されます(税込7,560円-税込540円=税込7,020円)。したがって、会社が食事を仕入れた費用は、福利厚生費として仕入税額控除の対象には該当せず、給与として消費税の課税の対象外となります。
4.外部の特定の食堂と契約し、かつ、従業員にその食堂で使用できる食券を交付する場合
無償で食券を交付する場合
基本的に「3.社員食堂で従業員に食事を提供する場合」と同様です。
有償で食券を交付する場合
基本的に「3.社員食堂で従業員に食事を提供する場合」と同様です。
ただし、従業員から徴収した代金を預り金として処理している場合には、事業者が実際に負担した部分の金額のみが課税仕入れの対象となります(国税庁タックスアンサー(従業員に対する食事の提供))。
具体的な会計処理を検討するため、会社が従業員にお昼のお弁当代を手配するにあたり、次の条件のもとお弁当を手配していると仮定します(税抜表示)。
(1)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計7,000円のお弁当を支給
(2)会社は、従業員一人あたり1カ月につき合計3,500円の金額を給与から徴収(50%以上を徴収)
(3)上記以外は考慮外
上記の場合、会社がそれぞれ計上するべき仕訳は次のとおりです。
(1)福利厚生費 3,500円 /現金預金7,560円
仮払消費税等 280円
預り金 3,500円
(2)給与xxx円 /現金預金 yyy円
/預り金 3,500円
5.参考規定
●国税庁タックスアンサー(従業員に対する食事の提供)消費税
消費税基本通達5-4-4(福利厚生施設の利用)
事業者が、その有する宿舎、宿泊所、集会所、体育館、食堂その他の施設を、対価を得て役員又は使用人等に利用させる行為は、資産の譲渡等に該当することに留意する。
消費税基本通達10-1-1(譲渡等の対価の額)
法第28条第1項本文《課税標準》に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」とは、課税資産の譲渡等に係る対価につき、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他の経済的利益の額をいい、消費税額等を含まないのであるが、この場合の「収受すべき」とは、別に定めるものを除き、その課税資産の譲渡等を行った場合の当該課税資産等の価額をいうのではなく、その譲渡等に係る当事者間で授受することとした対価の額をいうのであるから留意する。
(注) 同条第1項ただし書又は第3項《資産のみなし譲渡》の規定により、法人が役員に対して著しく低い価額で資産の譲渡若しくは贈与を行った場合又は個人事業者が棚卸資産又は棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを家事のために消費若しくは使用した場合には、当該譲渡等の時におけるその資産の価額により譲渡があったものとされる。
消費税法第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~七 ・・・
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
八の二~八の五 ・・・
九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
十~十一 ・・・
十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条第1項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第7条第1項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第8条第1項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。
十三~二十
消費税法第4条(課税の対象)
国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
2 保税地域から引き取られる外国貨物には、この法律により、消費税を課する。
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、第三号に掲げる場合において、同号に定める場所がないときは、当該資産の譲渡等は国内以外の地域で行われたものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合 当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所(当該資産が船舶、航空機、鉱業権、特許権、著作権、国債証券、株券その他の資産でその所在していた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
二 役務の提供である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が国際運輸、国際通信その他の役務の提供で当該役務の提供が行われた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
三 電気通信利用役務の提供である場合 当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所(現在まで引き続いて一年以上居住する場所をいう。)又は本店若しくは主たる事務所の所在地
4 特定仕入れが国内において行われたかどうかの判定は、当該特定仕入れを行つた事業者が、当該特定仕入れとして他の者から受けた役務の提供につき、前項第二号又は第三号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、国外事業者が恒久的施設(所得税法第二条第一項第八号の四(定義)又は法人税法第二条第十二号の十九(定義)に規定する恒久的施設をいう。)で行う特定仕入れ(他の者から受けた事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものに限る。以下この項において同じ。)のうち、国内において行う資産の譲渡等に要するものは、国内で行われたものとし、事業者(国外事業者を除く。)が国外事業所等(所得税法第九十五条第四項第一号(外国税額控除)又は法人税法第六十九条第四項第一号(外国税額の控除)に規定する国外事業所等をいう。)で行う特定仕入れのうち、国内以外の地域において行う資産の譲渡等にのみ要するものは、国内以外の地域で行われたものとする。
5 次に掲げる行為は、事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなす。
一 個人事業者が棚卸資産又は棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを家事のために消費し、又は使用した場合における当該消費又は使用
二 法人が資産をその役員(法人税法第二条第十五号に規定する役員をいう。)に対して贈与した場合における当該贈与
6 保税地域において外国貨物が消費され、又は使用された場合には、その消費又は使用をした者がその消費又は使用の時に当該外国貨物をその保税地域から引き取るものとみなす。ただし、当該外国貨物が課税貨物の原料又は材料として消費され、又は使用された場合その他政令で定める場合は、この限りでない。
7 第三項から前項までに定めるもののほか、課税の対象の細目に関し必要な事項は、政令で定める。