1.所得税法における食事補助規定の原則と例外
所得税法では、役員や従業員が会社から金銭を直接支給されない場合であっても、食事という現物を支給することで価値が移転したとして、その役員や従業員が”経済的利益”を得ていると認められる場合には、原則として、その経済的利益の金額に対して所得税が課されます(所得税法第36条、所得税基本通達36-15)。
所得税法第36条(収入金額)
その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
3 ・・・
所得税基本通達36-15(経済的な利益)
法第36条第1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」(以下36-50までにおいて「経済的利益」という。)には、次に掲げるような利益が含まれる。
(1) 物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益
(2) 土地、家屋その他の資産(金銭を除く。)の貸与を無償又は低い対価で受けた場合における通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
(3) 金銭の貸付け又は提供を無利息又は通常の利率よりも低い利率で受けた場合における通常の利率により計算した利息の額又はその通常の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額に相当する利益
(4) (2)及び(3)以外の用役の提供を無償又は低い対価で受けた場合におけるその用役について通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
(5) 買掛金その他の債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額又は自己の債務を他人が負担した場合における当該負担した金額に相当する利益
しかし、例外として、一定の要件を満たす現物を支給する場合などの経済的利益については所得税を課さなくてもは問題ないこととされています(所得税基本通達36-21~36-35の2)。
ただし、この例外の場合も現物を支給する場合の例外であり、金銭を支給する場合は基本的に所得税が課されます。
2.所得税法における食事補助の類型
会議、MTG、打合せで支給する食事
お客様や取引先と打合せをするために飲食店等で食事をする場合の費用は純然たる会議費として経費になります。
金額の上限は特に規定されていないため、お客様や取引先の重要性と支出した金額のバランスなど社会通念上問題ない範囲(一般常識の範囲内)で認められます。
なお、1人当たり5,000円以下の交際費の接待飲食費とは全く別の論点ですので、混同しないように留意が必要です。
交際費の1人当たり5,000円以下の接待飲食費については、国税庁からFAQが公表されているため、参考されてもよろしいかもしれません。
●国税庁HP(交際費の接待飲食費に関するFAQ)
ランチなど通常の勤務時間内(残業又は宿日直、深夜勤務以外の勤務時間)に支給する食事
会社が役員又は使用人に対し支給する食事は、次の2つに分けられます。
①会社が調理して支給する食事
②会社が購入して支給する食事
所得税基本通達36-38の2(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)
使用者が役員又は使用人に対し支給した食事(36-24の食事を除く。)につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、36-38により評価した当該食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。
ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額3,500円を超えるときは、この限りでない。
所得税基本通達36-38(食事の評価)
使用者が役員又は使用人に対し支給する食事については、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額により評価する。
(1) 使用者が調理して支給する食事 その食事の材料等に要する直接費の額に相当する金額
(2) 使用者が購入して支給する食事 その食事の購入価額に相当する金額
役員や使用人に食事を支給する際は、次の2つの要件を満たす場合は給与所得として課税されないこととされています(所得税基本通達36-38の2)。
(1)役員や使用人が食事の価額の50%以上を負担していること
(2)金額が1か月当たり3,500円(税抜)以下であること
※月額3,500円の食事代の金額判定は、消費税抜きの金額で行います。
一方で、上記2つの要件を満たしていない場合は、食事代と役員や使用人が負担した金額との差額が給与所得として課税されます。
食事代の評価は、①社員食堂などで会社が作った食事を支給している場合には食事の材料費や調味料など食事を作るために直接かかった費用の合計額をいい、②弁当などを購入して支給している場合には業者に支払う購入金額をいいます(弁当に限らず飲食店での食事も認められます)。
なお、役員や従業員が食事を立て替えて、後日会社が現金で精算する場合は認められません(国税庁タックスアンサー(使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合)を参照)。
例えば、会社と飲食店との契約により、役員や従業員の食事代を会社が飲食店に支払う場合は、所得税基本通達36-38の2に規定する「使用者が役員又は使用人に対し食事を支給する場合」に該当するため、上記2つの要件を満たす場合は給与所得として課税されません。
一方で、役員や従業員が食事代を立て替えて、会社が役員や従業員に現金で精算する場合(銀行口座に振り込む場合を含む)には、食事という現物ではなく現金を支給することになるため、所得税基本通達36-38の2の適用はなく、基本的に食事補助をする全額が給与所得として課税されることとなります。
●国税庁タックスアンサー(食事を支給したとき)
●国税庁タックスアンサー(使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合)
●国税庁タックスアンサー(食事を支給したときの非課税限度額の判定(令和元年10月1日以降))
残業又は宿日直をした者に支給する食事
役員や従業員が就業規則等で定める勤務時間外に残業をした場合(定時外勤務をした場合)に会社が支給する夕食や泊まり込み当番の役員や従業員に会社が夕食及び朝食を支給する場合、これらの夕食や朝食はその残業や宿日直の業務に伴い役員や従業員に生じた費用(コスト)であるため、夕食代や朝食代として実際に生じた費用(コスト)の立替金的な性格として、”実費弁償的”なものとして給与所得として課税されないこととされています。
先述の所得税基本通達36-38の2(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)と異なり、会社が準備できないなどの理由で役員や従業員が食事を立て替えて、後日会社が精算する場合も、特に問題なく認められると考えられます(つまり、給与所得として課税されません)。
(本規定の趣旨が実費弁償的な性質を有することと国税庁からタックスアンサーなどでこれを禁止する規定が公表されていないことが理由となります)。
所得税基本通達36-24(課税しない経済的利益……残業又は宿日直をした者に支給する食事)
使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。
深夜勤務(正規の勤務時間による勤務が午後10時から翌日午前5時までの間の勤務)者に支給する食事
深夜勤務者(正規の勤務時間による勤務が午後10時から翌日午前5時までの間で行われる者)に対し、会社が調理施設を有しないなどの事情により、深夜勤務に伴う夜食を現物で支給することが難しい場合で、その夜食の現物支給に代えて給与に加算して勤務1回につき300円以下の金銭を支給する場合は、給与所得として課税されないこととされています。
ただし、留意点として、残業の延長で勤務時間が午後10時を超えた場合ではなく、正規の勤務時間が午後10時から翌日午前5時までの間で勤務をする従業員についての規定となります。
したがって、先述の所得税基本通達36-24(課税しない経済的利益……残業又は宿日直をした者に支給する食事)とは全く別の規定となりますので留意が必要です。
●国税庁法令解釈通達(深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭に対する所得税の取扱いについて)
3.参考規定
本文で使用した規定は次の通りです。
なお、法令については令和4年10月時点のe-Govポータルサイトより引用し、通達、タックスアンサー、法令解釈通達については国税庁HPより引用しています。
●国税庁タックスアンサー(食事を支給したとき)
●国税庁タックスアンサー(使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合)
●国税庁法令解釈通達(深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭に対する所得税の取扱いについて)
●国税庁タックスアンサー(食事を支給したときの非課税限度額の判定(令和元年10月1日以降))
●国税庁HP(接待飲食費に関するFAQ)
所得税基本通達36-24(課税しない経済的利益……残業又は宿日直をした者に支給する食事)
使用者が、残業又は宿直若しくは日直をした者(その者の通常の勤務時間外における勤務としてこれらの勤務を行った者に限る。)に対し、これらの勤務をすることにより支給する食事については、課税しなくて差し支えない。
所得税基本通達36-38(食事の評価)
使用者が役員又は使用人に対し支給する食事については、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる金額により評価する。
(1) 使用者が調理して支給する食事 その食事の材料等に要する直接費の額に相当する金額
(2) 使用者が購入して支給する食事 その食事の購入価額に相当する金額
所得税基本通達36-38の2(食事の支給による経済的利益はないものとする場合)
使用者が役員又は使用人に対し支給した食事(36-24の食事を除く。)につき当該役員又は使用人から実際に徴収している対価の額が、36-38により評価した当該食事の価額の50%相当額以上である場合には、当該役員又は使用人が食事の支給により受ける経済的利益はないものとする。
ただし、当該食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額が月額3,500円を超えるときは、この限りでない。
所得税法36条(収入金額)
その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
3 ・・・
所得税基本通達36-15(経済的な利益)
法第36条第1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」(以下36-50までにおいて「経済的利益」という。)には、次に掲げるような利益が含まれる。
(1) 物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益
(2) 土地、家屋その他の資産(金銭を除く。)の貸与を無償又は低い対価で受けた場合における通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
(3) 金銭の貸付け又は提供を無利息又は通常の利率よりも低い利率で受けた場合における通常の利率により計算した利息の額又はその通常の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額に相当する利益
(4) (2)及び(3)以外の用役の提供を無償又は低い対価で受けた場合におけるその用役について通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
(5) 買掛金その他の債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額又は自己の債務を他人が負担した場合における当該負担した金額に相当する利益
所得税基本通達28-1(宿日直料)
宿直料又は日直料は給与等(法第28条第1項に規定する給与等をいう。以下同じ。)に該当する。
ただし、次のいずれかに該当する宿直料又は日直料を除き、その支給の基因となった勤務1回につき支給される金額(宿直又は日直の勤務をすることにより支給される食事の価額を除く。)のうち4,000円(宿直又は日直の勤務をすることにより支給される食事がある場合には、4,000円からその食事の価額を控除した残額)までの部分については、課税しないものとする。
(1) 休日又は夜間の留守番だけを行うために雇用された者及びその場所に居住し、休日又は夜間の留守番をも含めた勤務を行うものとして雇用された者に当該留守番に相当する勤務について支給される宿直料又は日直料
(2) 宿直又は日直の勤務をその者の通常の勤務時間内の勤務として行った者及びこれらの勤務をしたことにより代日休暇が与えられる者に支給される宿直料又は日直料
(3) 宿直又は日直の勤務をする者の通常の給与等の額に比例した金額又は当該給与等の額に比例した金額に近似するように当該給与等の額の階級区分等に応じて定められた金額(以下この項においてこれらの金額を「給与比例額」という。)により支給される宿直料又は日直料(当該宿直料又は日直料が給与比例額とそれ以外の金額との合計額により支給されるものである場合には、給与比例額の部分に限る。)